美術家・田窪恭治さんの本棚を拝見!「知を創作の糧に」

クローゼットや机の引き出しと同様、なんだか覗いてみたくなる他人の本棚。各界の大の本好きに、普段は見せない「奥の院」を見せていただきます。(取材・文/大平一枝  撮影/本城直季

「本は僕にとって大事な食事みたいなものです」

執筆机の横には、美術史、哲学思想、大英自然史博物館の古生物学者の化石の歴史など「脳の休まる」本が

「学園紛争で2年から大学に行かず、新宿で詩人や劇作家らと飲んでいました。だから、まともに読み始めたのは30歳過ぎです」

美術家の田窪恭治さんは、20畳余のアトリエに所狭しと並ぶ本に囲まれながら笑った。蔵書は美術史から哲学書、対談集、石の写真集まで多岐にわたる。30年前にパリのジュンク堂で買った建築図版集も、まるで昨日読んだかのように、「ここがすばらしいのです」と、ページをさっと開く。ほとんどの本に付箋が貼られ、マーカーで線が引かれている。

ノートルダム大聖堂の修復で知られるフランス人建築家ヴィオレ・ル・デュクの書。城塞から身近な道具まで解説した大辞典

敬愛する美術評論家・詩人の瀧口修造の評論書。1962年刊。「説明に無駄がなく誰よりも分かりやすい。今読んでも新鮮です」

創作をしながら、ふっと視線をずらしたとき目に入る机上には、19世紀の文学、花の図鑑、創元社の『知の再発見』叢書など、一見作品には関係ないが、刺激になるものを。原稿を書く机の脇には、生物史や茶道など、脳が休まる楽な本を。背後には、画集や美術書が図書館のようにびっしり並ぶ。

雑誌文化全盛の学生時代、展評に掲載されるのが憧れだった『美術手帖』。掲載誌を含め’70 年代からの号が並ぶ

まさに博覧強記。だが、本人は語る。「僕は歴史も社会のこともまだまだ知りません」

創作をするだけでなく、もっと世の中のことを知らなければと強く思ったのは、29年前、フランスのノルマンディに移り住んだのがきっかけだ。

創作机の正面。「作品に直接関係ないけれど、作業中視界に入って、刺激や和みになる本を置いています」

分からないから今も先人の言葉に触れる

童話作家ミヒャエル・エンデの対談集の両書。「エンデが表現の意義や社会的芸術のありかたについて言葉をていねいに置き換えています」

モダンデザインの教科書。学生時代に読み、卒業後に書い直して再読。50 年余り手元に置き、今も紐解く愛読書である

30代の頃のバイブル。マティスの文章表現は簡略で明快なので素直に読める。ことあるごとに読み返している

美大卒業後まもなく、現代美術界で注目され、20代で海外のビエンナーレに出品。当時、「展評が『美術手帖』と『朝日新聞文化欄』に載り、個展を開くのが若手芸術家の目標」だった。それを経験しながら彼は、展示用に持ち運び、白いキューブの中で見る作品だけが美術ではないと、別の模索を始める。

そして、礼拝堂再生のため渡仏。「礼拝堂には村人が来ます。彼らと話して、自分はもっと社会のことを知らねばと。よりいっそう社会的なアートを意識するようになりました」。閉じられた展示空間から飛び出し、地域と関わり合いながら創作する現在の彼の“風景芸術”の作品群は、自らの“無知”を知ることから始まったともいえる。

食通ブリア・サヴァランの代表作。書評を見て購入。料理を通して芸術や学問、哲学を描く広く深い博識に魅了された

日本国際美術展に出品し、注目を浴びた25歳のときの現代美術作品『カルピス』がお目見え

少し前に終わった作品のスケッチ画など

アトリエの窓に広がる公園の風景

あなたにとって本とは、という問いに「食事のように大事なもの」と即答した。そして、知を創作の栄養にしてきた人は、こう付け加えた。「自分が何に興味があるのか、いまだに分からない。だからこれからも読み続けるのです」

「林檎の礼拝堂」の下絵

しなの鉄道の電車に描かれた作品のサンプル

 

田窪さんへのQ&A

Q この本棚や机は?
A 友達の会社が事務機器を買い換えたときに譲り受けたもの。1998年からずっとレイアウトは変わっていません。

Q アトリエはどんな使い方をされるのですか?
A 執筆やスケッチや構想を考えたり、読書に使います。実際の創作は、壁画や建築物の修復再生など現場で行うので、そこがアトリエになります。

Q どんなきっかけで本を買いますか?
A 最近は新聞の書評で買うことが多いです。好きな写真集は絶版が多いので古書店に行きます。海外で買うことも。

Q  好きなジャンルは?
A 画集、写真集、美術史など美術関連だけでなく、建築、歴史、詩人の随筆、対談集、評論など。小説はどうも苦手です。

田窪恭治さん
美術家。1949 年、愛媛県生まれ。多摩美術大学卒業後、国内外の画廊や美術館などで多数の作品を発表。’84 年、ヴェネチア・ビエンナーレに日本代表として参加。’89 年から10 年かけて完成したフランス、サン・ヴィゴール・ド・ミュー礼拝堂の再生プロジェクトで村野藤吾賞受賞。琴平山再生計画、聖心女子大ロビーモザイク画など各地で活躍。

※情報は「リライフプラスvol.30」取材時のものです

Source: Sumai
美術家・田窪恭治さんの本棚を拝見!「知を創作の糧に」